なのはな工房での浄書(譜面作成)が約90%は仕上がったと、工房の代表=パンくずさん(喜多京司)から連絡があったのが2000年4月、それに合わせて私は現在UNITY!の一連のプロジェクトの製作会議を行っているCCMC(Cyberspace Christian Media Communication)のメーリングリスト・メンバーに「UNITY!カラオケリクエスト」という名でアンケートを取りました。アルバム収録曲で特にカラオケで歌いたい曲を投票で決めようとしたワケです。当初は上位4曲という予定でしたが、実は第4位に同点で2曲入ってしまったため、全5曲に決定してしまいました。
さて、カラオケ製作に入る前に私は一度、全レコーディングに使用したデジタルマルチハードディスクレコーダー=Roland VS-880の全曲のオリジナルデータ(MOに保存)を全て聞いてみる事から始めました。久々に聞くマルチ・チャンネルの「UNITY!」は、2年半の長い製作の時代を思い起こさせ、感慨もひとしお。しかしその内の2曲だけ問題がありました。それがオマケCD収録決定だったものだから冷や汗タラタラ。
まずは「たたえよ主を」です。この曲を収めたMOだけ読み込みが出来ず、何度トライしても上手く行きません。どうやらMOディスクに何かトラブルがあったのでしょう。俗に言う“ディスクがトンでしまった”状態だったワケです。これでは全く手の施しようがありません。デジタルデータの場合、これは諦める他ありません。かといってリクエストでこの曲が最も人気が高く、誰もが皆で歌いたいと願っているため「できませんでした」ではお話にならない........困り果てた私に一筋の光を与えてくれたのは、1枚のMD(ミニディスク)でした。
1998年11月29日、私のバンド“Elpis”の「ヤァ!クリスマスコンサートツアー'97」初日のことです。この日は名古屋の日本福音ルーテル恵教会にて行ったライヴは2部構成、1部は通常のクリスマスコンサート、2部は“発売直前・UNITY!プレライヴ”でした。パンくずさん、谷淵和子さんも駆けつけて参加してくれたこのライヴでは2曲だけズバリ“カラオケ”を用いました。「たたえよ主を」はこの時、カラオケになっていたのです。聞いてみるとライヴ用ということもあって、かなりラフなミックスという印象は免れなかったものの、レコーディングされた全ての音が入っていました。又、ライヴ用に特別にエンディングも作ってありました。ふぅ、救われた! |
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次の問題は「あなたばかりの」でした。この曲ではレコーダーには生演奏した楽器と歌のみが収録されており、他のサウンドは一切入ってませんでした。この曲だけ他の曲とは違ったプロセスで製作していたのです。これはバックのアンサンブル演奏が、マン太郎くん(鬼塚正嗣)のフリー・フィーリングなギター伴奏(後日、宮崎 歩によって差し替え。詳しくはプロダクションノーツ「Road To UNITY!」を参照)に合わせるため、レコーダーを再生させると同時にとコンピューターをそれにシンクロさせ、他のパートをキーボードによってコンピューター上に記録していったのです。他の曲はシンセサイザーオーケストラを予めレコーディング、その上に歌や楽器をダビングしていったのですから、方法論としては全く逆です。又、これがアルバム中最後に仕上げた曲であり、期限も迫っていた事から全パートの録音完了と同時にミックスした記憶があります。つまり録音作業中の状態のままミックス作業へと移行した結果、レコーダーには不完全な状態で残されていたのです。有り難い事にコンピューター上を検索したらミックス時に使用した演奏データが見つかり、もう一度作業中の状態を再現すればOKでした。が、レコーディングで使用したサンプリングマシン用CD-ROMが紛失して見あたらない!そのCD-ROMはパーカッションを多数収めたもので、「あなたばかりの」ではかなり重要な音を出していました。しかしどこを探しても見あたらないため、仕方なくタンバリンとウィンドチャイムで代用し、追加レコーディングすることによってそのパートを補いました。
全てのカラオケ用音源が揃ったところで、そのオケの上にカラオケでは付き物の“ガイドメロディー”を演奏していきました。
全5曲のカラオケが完成、ミックスしたところで、フと物足りなさを感じた私は、更にオマケを付加することを提案、その内容は「譜面デモ演奏と未発表ライヴ音源」でした。これに異論が出なかったため、Elpisの1998年3月28日の日本聖公会・聖マルコ教会(東京・府中)で行った“Elpis Live#1:復活の希望に向かって!”にて収録した「十字架の愛」と「空の鳥よ野の花よ」の2曲をピックアップ、更に譜面集でピアノピースにアレンジされた「オーヴァーチュア:Access To The Lord」を演奏し、収録することにしました。 |
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それでも何かビシっと来ない。何故だろう?UNITY!の名の下に出るものとしては何か足りなさすぎる。その理由は、CDを再生したと同時にUNITY!独自の世界へ誘う導入部がなかったからでした。そこでこのオマケCDの導入部として「Unify!・イントロダクション」を新たにレコーディングしました。この時点で“オマケのカラオケCD”という概念はすっかり消え、UNITY!アルバムの番外編という印象になりました。
3.「Unify!」の意味
さて、巷で話題になっている「Unify!」のタイトルの意味ですが、これは“一致”という意味だったUNITYから一歩進み出て、“一致させる”というより能動的な姿勢を打ち出したものです....というのはあくまで表の顔。実はUNITYに限りなく近い単語を探した結果であります。が、ここからがユーモアで塗り固めていくことになります。“Unity”と書いた場合、“t”の文字を水平にひっくり返すと、“f”の文字になります。ジャケットをみて下さい、Unifyの“f”の文字が実際に“t”をひっくり返したものになっていることにお気づきになるハズです。又、ジャケットデザインの喜多京司(パンくず)さんにお願いして、オリジナルジャケットの変形版の使用を許可頂き、画にあった“UNITY!チップ”は全て“Unify!チップ”にアップグレードして頂きました。
UNITYの1文字をひっくり返したことは、「Unify!・イントロダクション」にも反映させました。この曲は聞いてお分かりの通り「オーヴァーチュア:Access To The Lord」が原曲で、クラシック技法的に見れば“模倣による変奏曲”と考えてもいいでしょう。何故なら「Unify!・イントロダクション」の主題は、「オーヴァーチュア....」の旋律を1小節単位でひっくりかえし、逆方向から演奏させたものが基本になっているのです。どうにも音楽的ではない部分のみ多少変更し、新たな音楽として十分聞けるものにしました。本来ならば「たたえよ主を」の旋律が登場する中間部は、全く別物にしましたけど....。尚、「オーヴァーチュア....」の主題はギターでは非常に演奏し辛いものでしたが、逆さまだと実に演奏しやすくなるため、ギターも自分で弾いています。
『Unify!』は真剣に信仰に向かうUNITY!プロジェクトの一面と、冗談好きでユーモラスな一面とを“Unify”し、プロジェクトの等身大の姿を表現したものなのです。名作「賢者の贈物」に示された事に倣い、自分の出来る範囲で出来る限りのものをプレゼントしたい、その気持ちを『Unify』には詰めたつもりなのです。