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UNITY!の活動は1999年、AVACO小川清司記念・視聴覚教育奨励賞を受賞いたしました。

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UNITY! 楽器図鑑3

Synthesizers/Keyboards】【Other Instruments】【Recording Equipments

 ROLAND VS-880(Hard-Disk MTR)
 YAMAHA Pro-Mix 01(Digial Mixer)
 YAMAHA SPX90(Reverb)
 BEHRINGER MDX2100(Comp-Limiter)
 KAWAI MX-16(Mixer)
 Shure SM-57(Mic)
 SONY DAT Recorder
 SHARP MD Recorder
 


【Recording Equipments】

・ROLAND VS-880(Hard-Disk MTR)

 パソコンで使うハードディスクをレコーディング・メディアに用いた8トラックの“ハードディスクレコーダー”(HDR)ですが、デジタルミキサー、2系統のデジタル・エフェクト・プロセッサーを内蔵した強者です。1986年の春に発売されて私は購入したのはその半年以上後でしたが、発売から2年経っても尚、最も人気のあるHDRです。このHDRの利点はディスクメディアの特性でもる“ランダム・アクセス”が可能な事で、テープ・メディアのような横に連続して記憶する半アナログ・プロセスの残ったものとは違い、曲やパートの切り張り編集などが可能です。又、内部処理の全てがデジタルで行われるため、音質は決して劣化しない上、CDクォリティで録音する事が可能な代物です。それ故、このCDでは全ての曲でこのHDRを使っています。
 私のVSには850MBのハードディスクを搭載してます。CDと同じ非圧縮録音で比較的余裕で数曲録れますが、今回は敢えて44.1KHzサンプリングに圧縮をかけたモード(MT2というモード)を基本に録音をしました。それはこのCDはとにかくテイクをいっぱい録る可能性が最初から見えていたためです。それとは別の意味で、中には「あなたばかりの」のようにVS-880の最低ランクに相当する32KHzサンプリングで録音したものもあります。敢えてサンプリング周波数の低く、高音も理論上は16KHz以上は録音できない(実際は12KHz以上は録れていない)とされる32KHzサンプリングをも使ったのには、32KHz録音のサウンドはどこかアナログテープっぽい中音域の味があったりするのです。
 「オーヴァーチュア:“Access To The Lord”」、「わたしはここにいる」等、幾つかに分割された録音部分(ミックスされたマスター)を繋ぎ合わせたり、「パラダイス」のように効果音があるもの、「賛美の声がする」のように録音時にはなかったようなイントロ(本来は手拍子からは始まっていなかった)を付加する場合、DATにミックスされたマスターテイクをVS-880に再び入れ込んで“編集”しました。その際のレコーディング・モードには44.1KHz/非圧縮(MASTERモード)で行いました。私はハードディスクドライヴの都合もありましたが、それぞれの曲でそれぞれのレコーディング・モードを選んだというわけです。

 6分に及ぶラストナンバー「たたえよ主を」では、HDRの最大の特徴である“ヴァーチャルトラック”という、1つのトラックにつき階層化された8つのトラックをフルに活用しています。数人の歌声が1節1節で入れ替わり立ち替わり登場していますが、それらは皆、1人の人が全編歌った中から切り取ってきたものです。それらは全て“ヴァーチャルトラック”というところに今も存在しています。又、「あの日のこと」では録音用MIDIデータを作成し電子mailでミルトス氏へ送り、それを再生しながら福山ひとみさんのボーカルのみをDATに収録、それを郵送してもらい、OKテイク4つをHDRにとりあえず入れ、更に部分的に厳選してボーカルトラックを作った上で、同じMIDIデータを使って最終オケ録音、そのオケに対してボーカルのタイミングや微妙なズレをHDR上で修正していきました。こういった事が出来るのはランダムアクセス可能なHDRならではのものです。逆に言えばHDRを使わなければこのCDは出来なかったかもしれません。

《みちくの余談》
 レコーディングという世界は常に貪欲なものです。どんなものでも録音できるなら使ってみよう、という発想がどこかにあるものです。それ故、HDRの歴史は思うよりも古くから始まっています。“デジタル・サンプリング”という確固たる理念が1980年代に広まり、それがRAMチップに音をデータ化して収める、という概念であったため、それなら記憶媒体としてアクセス速度が最速のハードディスクに書き込めばいいではないか、と発想するのは当然の成りゆきでしょう。しかし80年代はハードディスクはおろかRAM自体も非常に高価、しかもそれを随時読み出して音を再生・録音するためにはCPU自体もかなり高速な処理速度を求められるため、なかなか一般には浸透できるような代物ではありませんでした。そんな中、いち早くディスク・レコーディングを取り入れて製品化していたのは、フルセット1億5千万円もしたニューイングランド・デジタル社の“シンクラヴィア”だったと思います。これは当初はハードディスクではなく、LDサイズのMOだったようです。そして次第にドイツのPPGが(幻の)“リアライザー”等でHDRをシンセ音源内に取り入れたりし始め、イーミュレーターはハードディスク内蔵してデータ記憶媒体などに使うようになり、そんな中で登場したのはサンプル・セルやプロ・ツールスといったMacintoshベースのハードディスク・レコーディング・ユニット、更にはその機能をシークェンス・ソフトに組み入れた画期的なスタジオ・ヴィジョン等です。で同時に単体モノでもAKAIがADAMを、E-MUがDARWINを発売しますが、しかしこれらは完全にプロ仕様でした。HDRが一般化するには1994年過ぎまで待たなければなりません。サンプラーの世界で世界をリードしてきたAKAIが“DR”シリーズ(DR8d、DR4d)を市場に投入、時期をほぼ同じくしてMTRの世界で常にリードしてきた老舗=FOSTEXが8トラックの民生用HDRを市場に投入、ここから30万円以下のHDR競争合戦が始まります。このFOSTEXの機種に対し、YAMAHAやSONYは高価だったハードディスクではなく、安価で街の電気店でも購入できる手軽なMDを記憶媒体に用いた4トラックレコーダーを市場に投入、これらが話題を独占する中、鳴り物入りで登場したのがROLANDの8トラックHDR“ヴァーチャルスタジオ”=VS-880です。2系統のクォリティーの高いエフェクターを内蔵し、ひとつの箱の中で全てを完結させるという発想のこのマシン、爆発的に売れた製品でした。1997年にはOSシステム・バージョンのアップグレードがアナウンスされ、システムバージョン2.0=“V-Expanded”となります。ここで初めて本体のみでの“コンピュミックス”が実現しています。こうなれば無敵でしたが、トラック数が足りない、というプロ・ユーザーからの声を反映したのか、上位機種で16トラック仕様のVS-1680を、880まで手が届かないというアマチュアユーザーの声に応えた(??)のか、4トラック仕様のバージョンも1998年に発表しています。その直後にはVS-880のウィークポイントであったオーディオインプットの特性をアップ、更に操作性の難しさを改善したVS-880EXも発表しています。

・YAMAHA Pro-Mix 01(Digial Mixer) 

 1994年に購入しました。現在においても画期的なオールデジタルの18chINのコンピュミキサーです。スタジオ常設のメインミキサーであり、シンセサイザーを使ったレコーディングでは100%使用しています。2系統ある内蔵エフェクターは主にリバーブとコーラスにセッティングしっぱなしです。又、ミックスした音はデジタル・アウトで直接DAT等に48KHzサンプリングの最高音質で収めることが出来るのも素晴らしい利点です。CDのレコーディングではROLANDのVS-880がメインのレコーダーであったため、ミックスした音はアナログアウトからVSに、バックアップとしてデジタルアウトからDATに収めるという方法で進めました。

《みちくの余談》
 Pro-MIX01はいわば簡易PAミキサー、もしくはキーボード用サブミキサー的なニュアンスの強いもので、MTRと併用して使うには若干の問題がありました。バス・アウトがないのです。その後、完全プロ仕様のレコーディング・ミキサー02Rでその問題は完全に解消され、続く03Rは01と同等のサイズながら、01を軽く上回るミキシング機能を有しています。1998年には01のアップグレード版ともいえる01Vも登場し、YAMAHAのコンピュミキサーは完全に独走態勢のまま業界をリードしています。
 Pro-MIX01はデジタルだけあって音は非常に美しい、というか入力した音がそのまんまミキシングできるという素直さがあります。が、逆に素直すぎ、綺麗過ぎで、アナログミキサーにありがちな「癖」を与えるのは非常に難しいという側面もあります。アナログと違ってレベル設定には細心の注意が必要で、入力オーバーすればすぐに“デジタル的な歪み”が生じてしまい、それが決して音楽的な歪みではないのが難点です。多機能で使い勝手が良いという反面、あまりに律儀過ぎるところが好みの分かれるところでしょう。

《このマシンのユーザー》
 何と、これが出た直後、富田 勲などのプロの現場でこのミキサーはサブ・ミキサーとしてもてはやされ、同時にPAでもサブミキサーとして大活躍していました。ユーザーズリストを書き上げれば、電話帳のような厚さになるかもしれません。

・YAMAHA SPX90(Reverb)

 最初のマルチパーパス・デジタル・エフェクターです。1986年に発表され、私は発売と同時に1台購入しましたが、それ以来ずっと使い続けています。Pro-Mix01のAUXアウト1からSPXに常時接続しており、返しは01のステレオ・インに返しています。リバーブは、YAMAHA独特の少々ザラついたキメの荒い感じですが、入力(返し)の際にイコライザーで少々中音域を下げてやると爽やかな滑らかリバーブになります。CDでは主にスネアドラムのリバーブとして単体で使った他、空間的な広がりを出すためにステレオ・ディレイとして使ったり、用途は様々でした。ミックスの際には基本的にはハードディスクレコーダー=VS-880の外部アウト(AUX SEND)からエフェクト・センド用に取り出した音に対し、ステレオ・ディレイとして使いました。

《みちくの余談》
 このエフェクターに関しては詳しい説明は不要でしょう。DX-7等でバカ当たりを出したYAMAHAが、それに追い打ちをかけるように発表して、更なるバカ当たりを出した名機です。が、このマシンはS/Nが非常に悪く、ノイズが滅法多いことでも知られています。後に発表されたアップグレード版のSPX−90IIでは多少、改善されたようですが....。しかしこのエフェクターはアマチュアでも手の届くデジタル・リバーブとしてはかなり初期のものであり、そういう意味で現在のようなハイファイでナチュラルなリバーブではありません。YAMAHA独特のキメの粗い感じです。が、かえってそれがボーカル等の1〜3KHzにピークのある音に対しては具合が良い場合があり、うっすらとリバーブをかけるだけで前に出させるような音作りが可能です。超ロング・リバーブはあまり得意ではなく、適度なホール級のリバーブに特に良い味が出せます。又、ディレイとしてはこれもまたハイファイではなく、そこが(使い方により)素晴らしいものです。

《リバーブレイターの歴史?!》
 リバーブレイター(残響装置)の歴史は、山びこ効果を作り出すディレイ(エコー)よりも古いようです。そもそもは録音スタジオ内に広い“エコールーム”というものがあったりして、これは擬似的によく響く部屋を作り、リバーブ効果を付けていたものでしたが、そのうちそれが多少コンパクト化され、4畳半一間分ぐらいの鉄板リバーブ装置(プレートリバーブレイター)に発展しました。ツーンとヌケてワ〜ンとなるようなこの鉄板のリバーブ装置は50〜70年代まで頻繁にレコーディングでは使われていました。ですがこういった装置は正に“常設装置”であり、スタジオ以外では持ち得ないものでした。ミュージシャンや楽器メーカーはコンパクトで手軽に使えるリバーブを求めていましたが、それに応えられる素材にスチール製の“スプリング・コイル”を使った機種が登場しました。これはスプリングにオーディオ信号を流すことで得られる振動を拾うことでリバーブ感を得ることが出来ました。しかも驚くほど小さいスペースでそれが可能だったため、ハモンドオルガンやギターアンプ、シンセサイザー等の電気/電子機器本体に内蔵されるというほど普及しました。一般のオーディオ機器にも付加機能としてスプリングリバーブレイターが着いたりしたものです。しかしこのスプリングリバーブレイターには弱点がありました。立ち上がりの強いアタックのある音、例えばドラムスなどのようなパーカッシヴな音にはスプリングが“響きすぎて”しまい、ビチョン!という不愉快な音を出してしまいました。ですがミュージシャンの新しい音への探求は止まるところを知らず、逆にこの効果を演奏の中に取り入れたりする人も現れました。ディープ・パープルの「ハイウェイ・スター」のエンディングではハモンドオルガンを落としたかギターアンプを蹴り上げたか、スプリングリバーブによる破裂音が収録されていますし、エマーソン・レイク&パーマーのライヴパフォーマンスではハモンドオルガンを持ち上げて落下させた衝撃で地獄のような爆発音を出したり、直接スプリングを引っかいたりして不可思議なパーカッションとして演奏したりしていました。
 一方、山びこ効果のディレイ・エフェクトはリバーブとは逆に当時のオーディオ技術を集約したような形で台頭してくるわけですが、最初は磁気テープ式で“エコーチェンバー”とか呼ばれてました。ディレイはその幻想的な効果によって、ある意味では“特殊効果”として威力を発揮していったのですが、リバーブは相変わらずナチュラルさ、本来は反響しない場所での音をあたかもコンサートホールのような場所で演奏しているような音にする、疑似空間効果だったようです。ですがそれを逆手に取ってリバーブによる独自のスタジオ録音による音世界を作り出したのは“ウォール・オブ・サウンド”で一世風靡したフィル・スペクターでした。そのサウンドに多大な影響を受けたビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンも、その方向性を自ら消化し、バンドのサウンドに神聖で内省的なイメージを醸し出すことに成功していきました。

 そういったリバーブを“楽器”として扱うミュージシャン/プロデューサーが登場しても、やはり特殊な空間効果はディレイの独壇場だったことは否めません。特にシンセサイザー・ミュージックではディレイは必需品であり、70年代のシンセレコードではディレイによる空間処理が目立ちます。そんな中、デジタル・シュミレーションによるエフェクターで最も登場が早かったのはやはりディレイでした。イーヴンタイドのデジタル・ディレイはスタジオ・シーンでは先を争って導入するほどのものでした。ディレイがリバーブよりも先にデジタル化されたのはシュミレーションの上でプログラミングが比較的ラクだったのと、それを処理出来るマイクロチップのパワーがリバーブのような複雑な音響的シュミレーションを再現するには非力だったというのもあるようです。この後、デジタルディレイの技術はプログラミング上で様々に応用され、ハーモナイザー/サンプラーとして大変有名になったAMSのデジタルディレイ等、様々なアッと驚くエフェクターが作られて行きました。
 ところでその“デジタル・リバーブ”が最初に登場したのは1970年代後期だったようです。有名なところではLexiconの“PCM”シリーズが挙げられるでしょう。これにより、鉄板リバーブでもスプリングリバーブでもなし得なかったような、ビックリするほど長い残響時間なども可能となりました。残響時間7秒という大聖堂のリバーブ感を作ることなど、易々と出来ました。しかしこの時期、デジタルリバーブレイターが爆発的に製造されることなかったようです。その要因にはミュージック・シーンに於いてアメリカからのAORとディスコ・ミュージックに代表される“残響のないデッドなサウンド”がシーンを席巻していたからだと思われます。これはそれだけ“スタジオデザイン技術”が向上し、よりノイズが少ない無響に近い空間を作る技術がスタジオに持ち込まれたせいでしょう。ですからリバーブをふんだんに使って空間を演出するサウンド作りにシーンが転向していくには1981年頃まで待たなければならなかったようです。
 そんな中でも、このLexicon等のデジタル・リバーブのお陰で次々と大手電子楽器メーカーがデジタルリバーブのデザインと製造に乗りだし、YAMAHAは完全スタジオ仕様の“Rev1”等を市場に送り出しました。こういったマシンがスタジオで大きな評価を得ると、特に日本のメーカーはコンシュマーレベルの安いデジタルリバーブを作ることに重きを置いてデザインに励みます。私が記憶しているところで、YAMAHAはその技術力でまず“Rev7”という30万円台(??)のデジタルリバーブを出し、これがプロ/アマの両方に絶賛されたのを機に1984年だったか、20万円を切る安価なデジタルリバーブ“R-1000”を発表しました。これで市場の流れがガラリと変わったのは事実でしたが、このR-1000はデジタルリバーブとは言うもののモノラルイン/モノラルアウトという不満の残る代物でした。これを2台買ってLR個別に使用してステレオリバーブとして使っていた人も大勢いたようです。
 YAMAHAの勢いに対し他のメーカーは残念ながらR-1000と同等のデジタルリバーブを出すことは控えていたのでしょうか、匹敵する対抗商品はほとんど現れなかったと記憶しています。対抗商品が出始めたのはYAMAHAが\99,800という驚くべき破格値で登場させたマルチデジタルエエクター“SPX-90”を市場に投入した時からです。この後、リバーブレイターにデジタルディレイを付加、ディレイ機能とモジュレーション機能を合わせて使ったコーラスやフランジャー、フェイザー、更には80年代に現れたいかにもデジタル技術によるエフェクト=ハーモナイザー(ピッチシフター)、1ショット・サンプリング(フリーズ)、アナログ機器では定番のコンプレッサーやノイズゲート等も機能として合わせ持つような“マルチ・エフェクター”はすっかり主流となり、デジタル・リバーブレイターは「デジタル・オーディオ技術の結晶」という意味合いを強めていったわけです。

 今やデジタルリバーブを含むマルチエフェクターはシンセサイザーに標準的に内蔵されるに至っている安価なデジタル機器として知られていますが、しかしながら現在に於いてもまだ、そのリバーブを音楽に於ける“楽器”と同等の比重を置いて音世界を作り上げたフィル・スペクターのようなサウンド作りに匹敵するショッキングで新しいサウンドはただ一人を除いて現れていないと思われます。ただ一人、というのはいわゆるリバーブとノイズゲートを組み合わせて、リバーブを途中でカットするという荒技“ゲート・リバーブ”を作り出したエンジニア=スティーヴ・リリィホワイトです。彼の創造したサウンドは主にドラム・サウンドそのものを変えて行きましたが、それを最初に聞くことが出来たのは“元ジェネシス”だった頃のピーター・ガブリエルの3rdソロアルバムだったように思います。勿論、ジェネシスのアルバムでもそれは導入され、中心人物であるフィル・コリンズのドラムサウンドには欠かせないものとなっていきます。
 ちなみにフィル・スペクターの“ウォール・オブ・サウンド”を忠実に継承したミュージシャンに日本の大滝栄一、山下達郎などがいますが、80年代にロック・シーンに於いてそのサウンドを応用、よりシャープに甦らせたプロデューサー/エンジニアにジャーニーの「フロンティアーズ」やエイジアの初期3作を手がけたマイク・ストーンがいます。又、おかしな事をやるスーパーエンジニア/プロデューサーのアラン・パーソンズは自らの“アラン・パーソンズ・プロジェクト”の'85年の大ヒットシングル「Don't Answer Me」で自らの解釈による“ウォール・オブ・サウンド”を構築していますが、デジタル・リバーブを存分に使った独特の甘い世界を聞かせてくれています。

・BEHRINGER MDX2100(Comp-Limiter)

 ダイナミック・エフェクター系ではダントツの勢いを持っていたDBX(ダイナミック・エフェクターを応用したノイズリダクションシステムの会社としても知られています)に対抗したのか、安価で良質なダイナミック系エフェクターを作り続けてきたベリンガーの“コンポーザー”シリーズの2chコンプレッサー/リミッターです。そもそもこの手の“音を潰して音圧を上げる”エフェクターはエンジニアリング(ミキサーの領域)に疎い私にはほとんど興味がなかったのですが、レコーダーにVS-880のようなデジタル・ハードディスク・レコーダーを導入した時点で非常に気になるものになっていったのです。それ以前の私はアナログ磁気テープによるマルチ録音の方法であり、磁気テープが“テープ・コンプレッション”とスタジオでは言われるほど、それ自体がひとつのコンプレッサーとして働いていた事もあったのです。特に精度の悪いマルチやテープを使うと、それは明らかでした。
 が、デジタル録音方式に変えたところ、録音媒体にはそういったコンプレッションは皆無であり、どんな小さい音でも精密に収録してしまうVS-880の録音精度は滅法高く、それ故に歌い手のマイクとの距離がちょっと変わっただけでも音質/音量変化を逃さなくなった上、ドラムス等のパーカッション類は出音そのままを収録してしまいます。それ故、それまではテープ上で作っていた適度なコンプレッションを、別のディバイスで作らなければならなくなった為、私はコンプレッサーに少々興味を持つようになりました。1996年頃の事です。
 Elpisの前身“Peter宮崎道と仲間たち”の時、エンジニアリングを担当していたDD氏は、ベリンガーのコンプレッサー“MDX2000”を使用していました。ROLAND SC-88から出るシンセ・オケをそれに通した音を聞いて、私は即座に購入を決めたものです。左右のステレオ定位の分離の良さが向上し、カチっとシマったサウンドになるのを聞いたとき、私の目は開かれたようです。
 今や私のレコーディングでもコンプレッサーは欠かせないアイテムとなっています。特にCDではシンセ・オーケストラのレコーディングではALESIS DM5から出るスネアドラムとバスドラムのサウンドを“作る”ため、このMDX2100を使っています。又、「主のもとへ帰ろう」等のボーカルソースにはDD氏のMDX2000(MDX2100とほとんど同じ仕様の機種)がレコーディング時では使われ、それがVS-880に収録されています。
 又、「パラダイス」ではタイトでラウドなバスドラム・サウンドが欲しかったので、ベリンガーのこのコンプレッサーで“潰しつつ歪ませ”ているのですが、オケ・ミックスの段階で上手くミックス出来ていない為、あまり効果がなかったようですね。
 MDX2100はステレオソースをトータルコンプレッションさせる場合にはインプットの1(L)、2(R)を同期させ、Channel1のコントロールで2ch分を同じように強制的にセッティングする“Channel Link”という機能があります。が、最終ミックスの2chステレオソースを自分でマスタリングする際には、このChannel Linkをさせず、ステレオソースをLR片方ずつ独立してコンプレッションさせます。これにより、楽器の左右の分離が格段に違ってきます。DD氏はマスタリングの際、同じベリンガーの高機能マルチバンドコンプレッサー=MDX8000を使用しましたが、彼も左右の分離を良くするため、LR独立でコンプレッションさせているとのことです。

《みちくの余談:コンプレッサーとは?》
 恒例の余談です。さて、コンプレッサーとは一体どんなモノなのでしょう?基本的には音を入力した際、本来のソースに対してボリュームの上限を設定してそれ以上の音を出さないように設定し、ついでに入力ボリューム自体を上げることで“下から持ち上げ、上から潰す”。これによって得られる事は、例えば全体にコンプレッサーをかける“トータル・コンプ”の場合、1つの楽曲の中で小さいボリュームの音を持ち上げ、大きなボリュームで突出した音を押さえる事により、全体の音量が一定に保たれる事、それによる全体的な“音圧”がアップすることで、コンポやラジカセのボリュームを小さくしてもサウンドがハッキリ聞こえるという、全体のサウンドを“締める”働きがあります。
 それとは別に、1つの楽音のサウンドそのものを作る事でも使われます。必ず使われるのはパーカッション関連のモノですが、特に現代レコーディングテクニックの上でドラムス・サウンドはコンプレッサーなしには語れません。スネアやバスドラムはコンプレッションさせつつ、コンプレスされた時に消えてしまうアタック成分をコントロールする“アタック”を調整して“パシッ”というアタック音(皮の鳴り)を加減し、その後の減衰音をコントロールする“リリース”を調整してディケイ音(胴の鳴り)を加減します。これでバシャバシャしたドラムも“パシッ!”とよく締まったタイトな鳴りのドラムサウンドに変身します。

 レコーディングスタジオではコンプレッサーといえばUrei(ウーレイ)のコンプと決まっていますが、これは4つのコンプ・レシオ(コンプ比率)ボタンとアタック/リリースのつまみしかありませんが、ボーカルや管楽器、弦楽器、ベースやギターなどはこれで100%OKなサウンドを作り出します。それとは別にコンプレスした時に潰れる特定の周波数をエンハンスして補正する細かい設定の出来るコンプレッサーも(例えばValey Peopleなど)ありますが、それらは主にドラムス関係で使われる場合が多いようです。コンプレッサーは様々な用途で使われますが、やはり高価なプロ用機材は大変音が良く、レスポンスも良い。これをコンシュマーレベルの製品で探すとなると大変です。が、最近のDBXやベリンガーのコンプレッサーは細かい設定は出来ないもののプロ用コンプレッサーに匹敵するサウンドとレスポンスを持っています。これはスゴい事です。しかも内部は全てアナログ回路の為、コントロールはパネルに付いているつまみでリアルタイムに変えられます。コンプレッサーには“設定パターン”というものがなく、入力された楽器についてその都度それに合った設定が必要なほど繊細なサウンドディバイスです。ですからコンプレッサーを扱うには“耳”だけが頼り名のです。全てのコントロールを瞬時に切り替えられるデザインというのは必要なモノなのです。最近はデジタル・コンプレッサーにもかなり優れたものが出てきていますが、操作性が良くなければ時間ばかりかかって思い通りのコンプレッションへ近づくことがなかなか出来ないのは事実です。VS-880のエフェクトボードに搭載されたコンプレッサー・プログラムは高級機並の非常に優れたコンプレッサーですが、パラメーター呼び出し方式という操作性の悪さから非常に扱いづらいものになっています。音感と直感で操作するディバイス、その筆頭がコンプレッサーなのです。

 レコーディングスタジオではコンプレッサーによって音作りをするエンジニアがほぼ99%を占めていますが、それはデジタル録音時代に入ってコンソール(ミキサー)までもがデジタル化する中、コンプレッサーの重要性が増してきたことの現れでしょう。

・KAWAI MX-16(Mixer)

 YAMAHAのPro-Mix01がスタジオに入る前まで、この16INのコンパクトなキーボード・ミキサーがメイン・コンソールでした。Pro-Mix01導入に際して、ステージ用にとハズしたのですが、今回は「パラダイス」の最新のオケ・ミックスの段階で念のために用意しておきました。ですが実際的には使わなかったのが現状です。回路は勿論全てアナログです。

・Shure SM-57(Mic)

 老舗シュアーのダイナミック型マイクの名品です。池袋・要町から品川・大井町にスタジオを移転させた時、マイクが必要になったために購入しましたが、基本的には“何でも柔軟に録れる”ということでスタンダード化した名品を手に入れる事を念頭に置き、マイクを選択したのですが、SM-57を選ぶ一番の決め手になったのはROLAND VS-880のエフェクトボードに内蔵されたマイク・シミュレーター(マイクの特性を変化させる機能。これによりタイピン型の小さなマイクで録音した音をスタジオで使用するノイマン製のコンデンサー型マイクで録ったかのようなシッカリしたサウンドに変化させることが出来る魔法のエフェクト)との相性でした。マイクシミュレーターには幾つかの入力マイクの機種(特性)を選択する項目があり、ROLAND製のマイクに最適の項目は勿論の事、“Small Dynamic”という項目があります。これはどうやらSM-57の特性を基本にしているらしい、というのに気づいた為です。
 しかしそれに頼ることなくこのマイクは抜群に優れており、実際、どんなサウンドでも確実に拾ってくれます。CDでは「Tell Me The Way」、「パラダイス」、「あなたばかりの」、「タリタ・クミ(少女よ起きなさい)」、「賛美の声がする」、「こころのとびらをひらくと《P&J版》」、「たたえよ主を」のボーカルトラックの録音に使っています。

・SONY DTC-57ES(DAT Recorder)

 デジタルの“DAT”(Digital Audio Tape)レコーダーです。全ての音をミックスし、マスターを製作するには必需アイテムです。このレコーダーはスタジオでは常時YAMAHA Pro-Mix01の同軸デジタルアウトと直結しており、Pro-Mix01のA/D, D/Aコンバーターを介してアウトプットされた音をそのまんま収録できるようになっています。ROLAND VS-880からのデジタルアウトプットからも直結できる為、CDのミックスの際には重宝しました。又、SHARPのMDレコーダーとは光ファイバーケーブルで常時接続されています。
 このDATデッキは1993年頃のものですので、まだDATが登場して間もない頃のものといえます。ですから内蔵のA/D, D/Aコンバーターの精度が余り芳しくなく、アナログインプットから録音するソースの音質変化は著しいモノがありました。ですがデジタル・インプットを使用出来るようになり、その問題は解消されています。

・SHARP MD Recorder

 実はこれはウォークマンタイプのMDレコーダーです。様々な音素材を収録するためにも使用できましたが、今回はその必要がなかったため、DATマスターのバックアップ用として使用しました。


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